生まれ育った深川の郷土料理を後世に伝えたい
かつて、材木問屋が軒を連ねていた木場で、明治27年創業の「松葉鮨」に生まれ育った大山敏博さん(72歳)。深川めしや葱鮪鍋は子どもの頃から慣れ親しんだおふくろの味。この下町の味を残したいと、寿司店を弟に任せて『一穂』は来年で20年周年を迎える。
店名の『一穂』は、文字通り一本の穂のこと。穂先にたくさんの穂がつくように繁盛し「実るほど頭を垂れる稲穂かな」そんな店でありたいとの願いが込められている。
深川を代表する郷土料理といえば深川めし。アサリのみそ汁をご飯にかけて食した漁師飯がはじまりと言われている。深川名物となったのは昭和50年頃。大山さんの作る深川めしは、昔ながらのぶっかけ飯をアレンジして提供している。
「子どもの頃、店が忙しいときにアサリやハマグリ、アオヤギのみそ汁をご飯にぶっかけて食べていたね。なんだよ、またぶっかけかよ、って言うくらいにね」。
もう一つ、多くの人に知ってほしいというのが葱鮪鍋。「おじいさんの時代までは、鮪といえば赤身で、トロはすしネタとして人気がなくて、賄い食として鍋にしてた。うちの店では鰹だしのスープに筋身のトロを薄めに切ってネギ、豆腐、白菜、それにハリ生姜を散らす。シメは残りのスープで作るおじやが最高だよ」。
江戸下町の食文化や風習など話しはじめたら止まらない豊富な知識と話上手な大山さん。江戸っ子気質の母・きみさんの影響だという。
10年ほど前、全国から300店程集まる北海道「旭川食べマルシェ」に、ソウルフードの東京代表として、深川めしの出店依頼が舞い込んだ。頼まれるといやだといえない性分の大山さん。「わが町深川の郷土料理を広めたい」と、毎年9月に店は休みにして、深川めしのPRにも駆けつけている。
◎日本料理 ふか川『一穂』 江東区木場2-8-8 TEL.03-3643-2255
日・祝日定休/平日11:30~14:00/17:00~23:00(土は夜のみ)
※この記事はタウン誌「深川」265号に掲載したものです。